【はじめに】月曜日は、節税の基本は「将来への計画的な投資」である、というお話をしました。会社の未来のために支出のタイミングと内容を考えることは非常に重要です。しかし、忘れてはならないのが、そう「経営者自身」への投資です。社長の生活を安定させ、高いモチベーションを維持するための源泉、それが「役員報酬」です。この役員報酬の決定は、原則として年に一度しか変更できない、極めて重要な経営判断です。なぜなら、その金額一つで、会社が支払う税金と、社長個人が支払う税金・社会保険料が劇的に変わるからです。今回は、この複雑なパズルを解き明かし、会社と個人の手残りを最大化するための考え方を解説します。■ 役員報酬が「最も難しい節税」と言われる本当の理由なぜ、役員報酬の設定はこれほど難しいのでしょうか。それは2つの理由があります。まず、「会社の利益」と「個人の所得」が、シーソーのような関係(トレードオフ)にあるからです。次に、その計算には様々な税法と社会保険制度が絡み合って簡単に計算が出来ないからです。役員報酬を高くする → 会社の経費が増え、会社の利益が減るため、法人税は安くなります。しかし、社長個人の所得が増えるため、個人の所得税・住民税・社会保険料は高くなります。役員報酬を低くする → 社長の個人の税・社会保険料は安くなります。しかし、会社の利益が増えるため、法人税は高くなります。つまり、「会社の税金を減らしたい」と「個人の手取りを増やしたい」は、両立しないのです。この矛盾の中で、「会社と個人を合わせたトータルのキャッシュが、最も多く残るポイント」を探し出すこと。それが、役員報酬最適化のゴールです。■ 最適なバランスを見つけるための「シミュレーション」では、その最適なバランスは、どうやって見つければいいのでしょうか。「ひとまず年収1000万円はほしい!」など感覚や「だいたい手取りが30万円残れば大丈夫だと思う、たぶん」と、どんぶり勘定で決めるのはあまりにも危険です。答えは、「顧問の税理士事務所と共に、複数のパターンでシミュレーションを行うこと」です。事業年度が始まる前に、その期の利益を予測し、例えば以下のような複数のパターンで試算を依頼します。役員報酬の下限:生活費を賄うために最低限必要な額役員報酬の上限:会社の利益が0円になる最大限支給できる額この2つパターンの中で、額面を10万円単位などで何パターンか用意します。例えば月額30万円、40万円、50万円、60万円の場合などです。そして、①会社が支払う法人税、②社長個人が支払う所得税・住民税、そして③会社と個人が負担する社会保険料の合計額がどうなるかを算出します。特に、税金以上に負担が重くなりがちな社会保険料まで含めて試算することが極めて重要です。このシミュレーション結果を比較し、「法人と個人を含めて最もバランスの良い役員報酬」を、戦略的に決定していきます。■ 絶対に守るべき「役員報酬のルール」戦略的に役員報酬を決めても、ルールを守らなければ会社の経費として認められず、法人税の節税を行うことができないというペナルティを受けてしまう可能性があります。最低限、以下のルールは必ず守ってください。定期同額給与の原則: 役員報酬は、原則として事業年度の開始から3ヶ月以内に決定し、その期中は毎月同じ額を支払わなければなりません。事業の途中で「利益が出たから報酬を上げよう」と増額しても、原則的には、その増額分は経費(損金)として認められません。不相当に高額でないこと: 同業他社の同じくらいの規模の会社の役員報酬と比べて、あまりにも高額な場合は、その高額な部分が経費として認められない可能性があります。役員にボーナス(賞与)を支払う場合は、事前に税務署に金額と支払時期を届け出る「事前確定届出給与」という手続きが必要になるなど、役員報酬には厳格なルールが定められています。詳細は、税理士事務所に相談することをお勧め致します。【まとめ】役員報酬の決定は、節税のテクニックであると同時に、会社の利益計画と、経営者自身のライフプランをすり合わせる重要な経営戦略です。年に一度のこの重要な意思決定を、ぜひ顧問の税理士事務所とじっくり相談の上、計画的に行ってください。