【はじめに】月曜日に「経費」、火曜日に「役員報酬」と、節税の基本と要を押さえてきました。会社の利益計画や社長個人の手取り額が見えてきたら、次のステップは、その大切なキャッシュを「守り」そして「育てる」ことです。幸いなことに、国は私たち中小ベンチャー経営者のために、節税と将来への備えを両立できる、非常に有利な制度をいくつも用意してくれています。その中でも、多くの経営者が活用している「三種の神器」とも言える3つの制度をご紹介します。これらは単なる節税ではなく、会社の未来を盤石にするための賢い投資です。■ 1.【守りの節税】倒産防止共済(通称:経営セーフティ共済)まずご紹介するのは、取引先の倒産という、自社だけではどうにもできない「万が一」に備えるためのセーフティネット制度です。節税の仕組みは? 支払った掛金が、全額、法人の経費(損金)になります。掛金は月額5,000円から20万円まで自由に設定でき、年間最大240万円、総額800万円まで積み立てることが可能です。最大のメリットは?強力な節税効果: 利益が出た期に掛金を支払うことで、その期の法人税を大きく圧縮できます。いざという時の融資: 取引先が倒産した場合、積み立てた掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで、無担保・無保証人で迅速に借入れができます。解約時に戻ってくる: 40ヶ月以上掛金を支払えば、解約時に掛金が100%戻ってきます。つまり、実質的に会社の資産を簿外(帳簿の外)に貯めながら、支払時には損金として節税できる、非常に強力な制度です。注意点は? 解約時に戻ってくるお金(解約手当金)は、その期の利益(益金)として課税されます。そのため、社長に賞与を支払う、事業を大きく転換するので売上が立たない時期がある、社長の退職金を支払うなど、大きな経費が出るタイミングや利益が見込めないタイミングで解約する「出口戦略」をあらかじめ考えておくことが重要です。■ 2.【社長の退職金作り】小規模企業共済次に紹介するのは、中小企業の経営者や個人事業主のための「国が作った退職金制度」です。経営者には会社員のような退職金がありません。その備えを、節税しながら行えるのがこの制度です。節税の仕組みは? 支払った掛金が、全額、社長個人の所得から控除(所得控除)されます。掛金は月額1,000円から7万円まで設定でき、年間最大84万円を所得から差し引くことができます。最大のメリットは?個人の所得税・住民税を節税: 課税対象となる所得そのものを減らせるため、非常に節税効果が高いです。例えば、所得税・住民税の税率が合計30%の方なら、年間84万円を掛けることで、約25万円も税金が安くなります。受け取り時も税制優遇: 将来、退職金として受け取る際も、「退職所得控除」や「公的年金等控除」といった非常に大きな控除が適用されるため、税負担が軽く済みます。注意点は? この制度は、あくまで老後のための「退職金」制度です。原則として、事業を完全に辞めたり、退職したりしない限り、引き出すことはできません。■ 3.【会社も社員も得する】企業型確定拠出年金(企業型DC)最後に、社長一人の節税だけでなく、従業員の福利厚生も兼ね備えた、よりパワフルな制度をご紹介します。節税の仕組みは? 会社が従業員(社長も含む)のために掛金を拠出し、そのお金を各自が運用して将来の年金を形成する制度です。この、会社が支払う掛金が全額、法人の経費(損金)になります。さらに、この掛金は給与とは見なされないため、社会保険料の算定基礎からも除外されます。最大のメリットは?法人税の節税: 掛金が全額損金になります。社会保険料の削減: 会社負担分、個人負担分ともに社会保険料を削減できる可能性があります。これは法人にとっても個人にとっても非常に大きなメリットです。福利厚生の充実: 魅力的な退職金制度として、人材不足と言われるこのご時世に人材の採用や定着に繋がります。注意点は? 制度の導入や運営に一定のコストと手間がかかります。また、掛金は原則60歳まで引き出すことができない、長期的な資産形成制度です。【まとめ】本日ご紹介した3つの制度は、目先の税金を減らすだけでなく、「万が一への備え」「経営者の未来への備え」「従業員への投資」という、会社の土台を強くする効果があります。自社で導入できるか、ぜひ一度、税理士事務所や社会保険労務士事務所に相談してみてください。明日は、これらの制度とは別に、事業そのものへの「攻めの投資」が、いかに強力な節税に繋がるかを解説します。