爽やかな秋晴れが心地よい10月。スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋と、何かと活動的な季節ですが、経理・労務の世界では、年末に向けてのイベント「年末調整」の準備が本格的にスタートする時期です。また、多くの地域で「最低賃金」が改定されるタイミングでもあります。今回はこれらの重要ポイントを中心に、10月にやるべきことを詳しく解説していきます。1. 最重要!年末調整の準備を本格的にスタート!年末調整は、従業員が1年間に支払った所得税の過不足を精算するための大切な手続きです。会社が従業員に代わってこの計算と精算を行うため、計画的な準備と正確な事務処理が求められます。年末調整とは? 毎月の給与から源泉徴収される所得税は、あくまで概算額です。生命保険料控除や扶養家族の状況など、個々の従業員の事情を反映した正しい年税額を計算し直し、源泉徴収済みの税額との差額を12月の最終給与などで還付または徴収する手続きです。10月中に会社が行うべき準備:従業員への各種申告書の配布: 以下の申告書を従業員に配布し、記入・提出を依頼します。早めに配布し、記入方法についてもアナウンスするとスムーズです。 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(翌年分)」: 翌年の扶養親族等の状況を申告してもらうものです。今年の年末調整にも一部情報を使用します。 「給与所得者の保険料控除申告書」: 生命保険料、地震保険料、社会保険料(国民年金保険料など個人で支払った分)、小規模企業共済等掛金の控除を受けるために必要です。 「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」: 基礎控除、配偶者(特別)控除、所得金額調整控除を受けるために必要です。1枚の様式にまとまっています。控除証明書等の準備アナウンス: 従業員に対して、生命保険会社などから送られてくる「生命保険料控除証明書」や「地震保険料控除証明書」、住宅ローン控除を受けるための「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」などを、紛失しないように保管し、申告書提出時に添付してもらうよう早めにアナウンスしましょう。税制改正の確認: 年末調整に関連する税制改正は毎年のようにあります。今年の改正点や注意点を国税庁のホームページやパンフレットで確認し、対応できるようにしておきましょう。スケジュールの策定: 書類の配布・回収期限、チェック期間、計算期間、最終給与への反映時期など、社内スケジュールを明確にしておくことが、スムーズな進行の鍵です。年末調整は手間のかかる作業ですが、従業員にとっては所得税の精算という重要な意味を持ちます。丁寧な対応を心がけましょう。2. 必ず確認!最低賃金は下回っていませんか?例年10月頃は、多くの都道府県で「地域別最低賃金」が改定され、新しい金額が発効する時期です。経営者は、自社の従業員の給与が、この新しい最低賃金額を上回っているか必ず確認しましょう。確認方法: 厚生労働省のウェブサイトや、各都道府県労働局のホームページで、自社の事業所が所在する地域の最新の最低賃金額を確認します。注意点: 時給制の従業員だけでなく、月給制の従業員についても、月給を1ヶ月の平均所定労働時間で割って時給に換算し、最低賃金額と比較する必要があります。 最低賃金の対象となる賃金には、通勤手当、残業代、賞与などは含まれません。基本給や職務手当など、毎月決まって支払われる基本的な賃金で比較します。もし最低賃金を下回っている場合は、速やかに給与体系を見直し、改善する必要があります。法令違反とならないよう、確実なチェックをお願いします。3. インボイス制度、運用状況の確認も2023年10月から開始されたインボイス制度。適格請求書発行事業者として登録されている企業は、適格請求書(インボイス)の発行や受領、保存が適切に行われているか、定期的に運用状況を確認しましょう。また、免税事業者との取引条件など、経理処理に変化はなかったかなども、必要に応じて見直す機会としましょう。まとめ:10月は年末調整の準備開始をする月!10月は、年末調整という年に一度の一大イベントの準備が本格的にスタートする月です。従業員への書類配布やアナウンスを計画的に進めましょう。また、最低賃金の確認は、法令遵守の観点からも非常に重要です。気候も良く、仕事に集中しやすい季節です。年末に向けて慌ただしくなる前に、これらの手続きを一つ一つ着実にこなしていきましょう。次回は、「11月にやるべきこと」として、年末調整の書類回収と計算作業の本格化や、労働保険料の延納(分割納付)などについて解説します。