事業計画コラム、これまで売上計画、変動費、そして固定費と、事業計画を構成する重要な要素について一つずつ解説してきました。今回は、いよいよそれらの要素を組み合わせて、具体的な数値計画に落とし込む実践編です。Excelやスプレッドシートといった身近なツールを使い、今後1年間の事業の羅針盤となる計画表を作成してみましょう。まずは「見える化」:Excel・スプレッドシートで計画表を作る頭の中で描いている事業のイメージも、具体的な数値に落とし込み、「見える化」することで、より鮮明になり、具体的な行動へと繋がりやすくなります。まずは、Excelやスプレッドシートを開き、シンプルな表を作成してみましょう。最低限、以下の項目を月別に1年間(12ヶ月分)並べて記入できるようにします。売上高売上原価(前回解説した仕入や、その他売上に直接関連する費用)売上総利益(粗利:売上高 - 売上原価)固定費(前回解説した人件費、家賃、減価償却費など)営業利益(売上総利益 - 固定費)これらに加えて、必要に応じて初期投資額、資金調達計画、キャッシュフローなどを追記していくと、より詳細な事業計画になりますが、まずはこのシンプルな損益計画からスタートしてみましょう。1年間の行動と数値を結びつける表の骨組みができたら、いよいよ数値を入力していきます。売上計画:第1回で考えた売上目標を、月ごとに分解して入力します。例えば、季節によって売上が変動するビジネスであればそれを加味したり、特定の月にキャンペーンを計画しているなら、その効果を売上に反映させたりします。どのようにしてその売上を達成するのか、具体的な行動計画とセットで考えると良いでしょう。変動費の計算:入力した月別の売上高に対して、前回学んだ変動費率(原価率など)を掛け合わせて算出します。売上が増えれば変動費も増える、という連動性を意識しましょう。固定費の計上:第3回で洗い出した固定費項目を、月ごとに入力します。家賃や役員報酬など毎月定額のものはそのまま、減価償却費など月によって変動しないものも計上します。水道光熱費など多少変動があるものも、まずは年間のおおよその平均月額や過去の実績から予測値を入れます。すべての数値を入力し終えると、月ごとの売上総利益(粗利)や営業利益が自動的に計算され、1年間の事業の収支見込みが明らかになります。「頑張れば達成できそうか?」自分に問いかけるさて、1年間の計画表が完成したら、じっくりと眺めてみましょう。そして、自分自身にこう問いかけてみてください。「この計画、本当に達成できそうか?」ここで重要なのは、目標設定の「ちょうど良い塩梅」です。私たちが推奨するのは、「背伸びは必要だけど、本気で頑張れば何とか達成できるかもしれない」、成功可能性にして60%程度と感じられる目標です。なぜなら、目標が低すぎるとどうでしょうか?「これくらいなら余裕だな」と思える目標は、達成しても大きな喜びや成長実感が得られにくく、日々の業務に対するモチベーションを維持するのが難しくなることがあります。逆に、目標が高すぎるとどうでしょう?「どう考えても無理だ…」というような非現実的な目標は、最初こそ意気込むかもしれませんが、日々の活動の中で目標との大きなギャップに直面し続けると、やがてプレッシャーに押しつぶされたり、「どうせ達成できない」と諦めの気持ちが生まれたりしがちです。そうなると、せっかく作った計画も次第に見向きもされなくなり、ただの「絵に描いた餅」になってしまいます。「成功確率60%」というのは、決して楽な道ではありません。しかし、達成のためには知恵を絞り、工夫を凝らし、行動量を増やす必要がある、そんな適度なストレッチ感が、日々の努力を引き出し、結果として事業の成長へと繋がるのです。計画は「予言」ではない。柔軟な修正で精度を上げる最後に、計画全体について非常に大切なことをお伝えします。それは、「計画」はあくまで「計画」であって、将来を完璧に言い当てる「予言」ではないということです。実際に事業活動を開始してみると、計画通りに進むことの方が稀かもしれません。思ったより売上が伸びることもあれば、予期せぬコストが発生することもあるでしょう。市場環境が変化することもあれば、競合の動きが影響することもあります。ここで重要なのは、計画と実績の間にズレが生じたときに、「計画なんて意味がなかった」と投げ出してしまうのではなく、「なぜズレたのか?」を分析し、計画を柔軟に微修正していくことです。例えば、売上が計画に届かなかった場合、その原因は営業活動が不足していたのか、商品やサービスの魅力が伝わっていなかったのか、それとも市場のニーズが変化したのか、といった要因を考えます。そして、その検討の結果に基づいて、行動計画や、場合によっては売上目標自体を見直します。このように、定期的に実績と計画を比較し、その差異を分析し、計画をアップデートしていく(まさにPDCAサイクルを回す)ことで、計画の精度はどんどん上がっていきます。そして、その過程で得られる気づきこそが、事業を成功に導くための貴重な学びとなるのです。まとめ今回は、Excelやスプレッドシートを使って1年間の事業計画を具体的に作成し、その目標設定の考え方や計画の柔軟な運用についてお話ししました。数値を「見える化」し、自分にとって「ちょうど良い」目標を設定し、そして実績を見ながら計画を育てていく。このプロセスを通じて、あなたの事業は着実に前進していくはずです。ぜひ、実際に手を動かして、あなただけの事業計画書を作成してみてください。