「これだけ想いを込めて作った商品なのに、なぜか全く売れない」 「毎日SNSで発信しているのに、問い合わせ一件すらない」製品やサービスには絶対の自信がある。それなのに、お客様に振り向いてもらえない…。これは、多くの創業経営者がぶつかる、分厚く、そして高い「最初の壁」です。やる気や根性だけでは、この壁を乗り越えることはできません。今日のコラムでは、その壁を突破するための、マーケティングの根本的な考え方についてお話しします。■ 「売りやすい」は「買いやすい」。視点を180度変えてみようなぜ、あなたの素晴らしい商品は売れないのでしょうか。その答えは、多くの場合「お客様の側に立っていない」ことにあります。私たちはつい、作り手としての情熱から「いかにこの商品は素晴らしいか(売りたいか)」を語ってしまいがちです。しかし、ビジネスの基本は常に「お客様目線」です。私が常々大切にしている言葉です。「売りやすい」は、すなわち「買いやすい」のです。お客様が「あ、これ私のための商品だ」「これなら私の悩みを解決してくれそう」と、直感的に”私のためのサービスだ”“手を伸ばしてもっとよく見たい”と感じる状態を作ること。それがマーケティングの出発点です。■ 創業者が陥る「八方美人」という罠「お客様目線が大事なのは分かっている。でも、具体的にどうすれば…」 そう考える経営者が、創業時に最も陥りやすい罠。それが「八方美人戦略」です。とにかく一人でも多くのお客様が欲しい、一日でも早く売上が欲しい。その焦りから、「若者にも、シニアにも」「初心者にも、プロにも」「個人にも、法人にも」と、あらゆるお客様に対応しようとしてしまうのです。提供する商品やサービスのラインナップも、気づけばどんどん増えていく…。一見すると、どんなお客様のニーズにも応えられそうで、正しい戦略のように思えます。しかし、現実はその逆です。お客様からすると、「結局、この店は何屋さんなの?」「たくさんありすぎて、本当に自分に必要な商品がどれか分からない」という状態に陥ってしまうのです。特徴のない定食屋さんが、流行っているからといって急にタピオカを始めるようなものです。結果、誰の心にも響かず、「よく分からない店」として、誰からも選ばれなくなってしまう。これほど悲しいことはありません。■ たった一人の「理想のお客様(ペルソナ)」を決める勇気この「八方美人」の罠から抜け出すための対処法が、「ペルソナ設定」です。ペルソナとは、自社が最も取引したいと考える「たった一人の理想のお客様」の人物像のこと。「30代の女性」といった曖昧なターゲット設定ではありません。 「東京都渋谷区在住、26歳、IT企業勤務の渡邉A子さん。最近マネージャーに昇進したが、部下とのコミュニケーションに悩んでいる。趣味は週末のヨガで、自己投資には積極的…」 というように、名前や年齢、職業、悩み、価値観まで、実在する人物かのように具体的に設定します。なぜ、ここまで具体的にする必要があるのか。それは、ターゲットが明確になればなるほど、その「たった一人」の心に突き刺さるメッセージを考えられるようになるからです。「頑張る全てのビジネスパーソンの皆様へ」というメッセージよりも、「部下との関係に悩む26歳の新米マネージャーの渡邉さんへ」というメッセージの方が、遥かに心に響くのは当然ですよね。■ 「絞る」ことで、あなたは選ばれる存在になるペルソナを設定するということは、裏を返せば「それ以外のお客様には売らない」と決めることでもあります。これは、創業経営者にとって非常に勇気がいる決断です。しかし、考えてみてください。すべての人を満足させようとする食堂と、「日本一の濃厚豚骨ラーメン」だけを追求する専門店、あなたが行列してでも食べたいのはどちらでしょうか?最初は、商品やサービスを思い切って絞り込みましょう。あなたの最も得意な領域で、それを喉から手が出るほど必要としているペルソナだけに、全力で価値を提供する。そうすることで、「〇〇のことで困ったら、あの会社に相談しよう」という、専門家としてのポジションが確立されます。「誰にでも売ろうとしない」。その勇気こそが、価格競争から抜け出し、お客様から指名して選ばれる存在になるための、最強のマーケティング戦略なのです。まずは、あなたの「理想のお客様」は一体誰なのか、紙に書き出すことから始めてみませんか。(この記事は6日間連続コラムの4日目です。明日は【メンタル】「相談相手がいない…」孤独な経営者の心を軽くする思考法をお届けします。