皆さん、こんにちは!「ビジネスの羅針盤!会計の勘定科目入門」、第4回をお届けします。前回は、ビジネスシーンでよく登場する「交際費」と「会議費」の区別と税務上のポイントについて解説しました。今回は、会社が長期間にわたって使用する「固定資産」と、その会計処理の要である「減価償却(げんかしょうきゃく)」について、具体的な事業例を交えながら詳しく見ていきましょう。少し難しく感じるかもしれませんが、事業の正しい成績表を作るためには欠かせない考え方です。1. 「減価償却」の基本~なぜ必要?どうやるの?~まず「固定資産(こていしさん)」とは、会社が販売目的ではなく、長期間(通常1年以上)にわたって事業のために使用する目的で保有する資産のことです。例えば、建物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品(パソコンや事務机など)がこれにあたります。これらの固定資産のうち、土地のように時の経過によって価値が基本的に減らないものを除き、多くの資産は、使用したり時間が経ったりすることによって徐々にその価値が減少していくと考えられます。この価値の減少分を、その資産が事業のために使用できると見積もられる期間(これを「耐用年数(たいようねんすう)」と言います)にわたって、ルールに従って少しずつ費用として計上していく会計手続きが「減価償却」です。そして、その費用を「減価償却費」と呼びます。なぜ減価償却が必要なのでしょうか?例えば、1000万円の機械を導入したとします。もし購入した年に全額を費用としてしまうと、その年の利益が不当に少なく計上され、逆に翌年以降は機械を使っているにも関わらず費用が計上されず、各年の経営成績が実態とかけ離れてしまいます。減価償却は、資産の取得にかかった費用を、その資産が収益を生み出すのに貢献する期間(耐用年数)にわたって適切に配分することで、より正確な期間損益計算を行うことを目的としています。これは「費用収益対応の原則」という会計の大原則にも基づいています。減価償却費の計算方法には主に、毎年同額を費用として計上する「定額法」や、資産の未償却残高に一定率を掛けて計算し、使用開始の初期に多くの費用が計上される「定率法」などがあります。どちらの方法を選択するかは、会社の方針や資産の種類によって異なります。2. 事業別・代表的な減価償却資産では、具体的にどのようなものが減価償却資産として扱われるのか、事業別に見ていきましょう。各資産の耐用年数は、その構造や用途、材質などを考慮して、法人税法で細かく定められています。飲食業(レストラン、カフェ、居酒屋など)建物・建物附属設備:店舗そのもの、厨房設備(業務用コンロ、オーブン、フライヤー、大型冷蔵庫・冷凍庫、製氷機、食器洗浄機など)、排気・換気ダクト、内装(壁紙、床、天井)、空調設備、給排水衛生設備。 工具器具備品:レジスター、POSシステム、オーダーエントリーシステム、テーブル、椅子、業務用調理器具(ミキサー、スライサー等)、比較的高価な食器類(まとめて取得した場合など)。 車両運搬具:食材の仕入れやデリバリーに使用する軽トラック、バイクなど。物販業(小売店、アパレルショップ、雑貨店など)建物・建物附属設備:店舗、倉庫、商品陳列棚(壁や床に固定された造り付けのもの)、店舗内装、看板(建物と一体のもの)、エレベーター、エスカレーター、空調設備。 工具器具備品:レジスター、POSシステム、スキャナー、商品陳列什器(可動式の棚やケース)、防犯カメラ、マネキン、試着室の鏡、パソコン、プリンター。 車両運搬具:商品の配送に使用するトラック、バン、社用車。 ソフトウェア:販売管理システム、在庫管理システム、顧客管理システムなど(購入したもの)。オフィスワーク中心の事業(IT企業、コンサルティング業、デザイン事務所、士業事務所など)建物・建物附属設備:(自社ビルや区分所有オフィスの場合)建物本体、事務所の内装、固定パーテーション、LAN配線設備、空調設備。 工具器具備品:業務に使用するパソコン、ノートPC、サーバー、モニター、プリンター、コピー機、複合機、プロジェクター、シュレッダー、応接セット、事務机、椅子、キャビネット、書棚、電話設備。 ソフトウェア:業務で使用する会計ソフト、給与計算ソフト、デザインソフト、プログラミング用ソフト、セキュリティソフト、自社利用のグループウェアなど(購入したもの)。 (場合によっては)車両運搬具:営業活動や役員の移動に使用する社用車など。これらはあくまで代表的な例であり、実際の会計処理では、資産の取得価額や使用可能期間などを個別に検討して減価償却を行うかどうかを判断します。例えば、取得価額が10万円未満の資産は、原則として購入した期に全額を消耗品費などとして費用処理できます。また、中小企業者等には、取得価額30万円未満の減価償却資産について、一定の要件のもとで年間合計300万円まで全額費用計上できる特例制度などもあります。3. 減価償却とキャッシュフロー減価償却費は、会計帳簿上は費用として計上されますが、その計上時に実際に会社から現金が出ていくわけではない費用です。しかし、税金の計算上は経費(損金)として認められるため、利益を圧縮し、結果として法人税等の支払いを抑える効果(節税効果)が期待できます。これにより、企業内部にお金が残りやすくなったり、減価償却資産を購入するために銀行から借り入れをしている場合には、その返済資金に充てることができるという側面も持っています。まとめ今回は、会社が長期間にわたって事業の用に供する「固定資産」と、その価値の減少を各期に費用として配分する「減価償却」という会計処理について解説しました。減価償却は、一見複雑に思えるかもしれませんが、長く使用する資産を購入した金額を、その使用する期間に按分して経費にしているだけですので、考え方はシンプルです。次回はいよいよこの連載の最終回です。売上、仕入、人件費、交際費、会議費、減価償却費とみてきましたが、これ以外の代表的な経費についてご紹介します。どうぞお楽しみに!