「経営者は、孤独だ」会社の規模や業種に関わらず、経営者になった人なら誰もが一度は、この言葉の意味を骨身にしみて感じたことがあるのではないでしょうか。オフィスには信頼できるメンバーがいて、活気のある会話が飛び交っている。なのに、自分だけがまるで分厚いガラスで隔てられた場所にいるような、言いようのない孤独感。それは決して気のせいではありません。そして、あなただけが感じている特別な感情でもないのです。そんな私も、メンバーが増え始めた5名~8名程度のころ、増えれば増えるほど、かえって事務所でアウェイ感を増していった時がありました。今日のコラムでは、なぜ経営者は孤独を感じるのか、その「構造的な理由」を解き明かし、その孤独と上手に付き合っていくための思考法についてお話しします。■ なぜ、仲間であるはずの従業員に相談できないのか?「相談相手がいない」と言っても、会社にはたくさんの従業員や業務委託の仲間がいるはずです。しかし、私たちは彼ら、彼女らに、経営の根幹に関わる悩みを打ち明けることができません。それは決して、従業員を信頼していないからではないのです。そこには、経営者と従業員という、決して越えられない役割の違いが存在します。1. 見ている景色(視座)が、全く違うから 経営者であるあなたは、常に数ヶ月先、数年先の未来を見据え、事業全体の方向性や会社の理念といった、中長期的な視点で物事を考えています。いわば、霧の中、見えない航路をコンパス一つで信じて進む船長です。 一方、優秀なメンバーであればあるほど、目の前のお客様への対応や、日々の業務のクオリティを高めることに全力を注いでいます。彼らは、船のデッキで荒波と戦う、頼もしい航海士です。 見ている景色も、時間軸も、そして責任の範囲も全く違うため、あなたの抱える「航路そのもの」についての悩みを相談しても、話が噛み合わないのは当然なのです。2. 決断の「重さ」を共有できないから 「会社の未来のために、この事業から撤退すべきかもしれない…どう思う?」 こんな重たい経営判断を、従業員に「どうしたらいいと思う?」と相談したとします。従業員はどう感じるでしょうか。おそらく、「そんなこと相談されても何とも言えません…」と困惑させてしまうし不安にさせるだけでしょう。 なぜなら、最終的にその決断の全責任を負うのは、経営者であるあなたただ一人だからです。その途方もない重圧は、同じ立場にならない限り、決して共有することはできません。3. 利害が必ずしも一致しないから これが最も根深い理由かもしれません。あなたの経営判断は、時に一部の従業員にとってはメリットになりますが、他の従業員にとってはデメリットになり得ます。 例えば、ある部門への投資を増やすという判断は、その部門のメンバーには喜ばれますが、他の部門から見れば自分たちの予算が削られたと感じるかもしれません。賞与のための評価基準を決めていたとして、ある従業員にとっては賞与が増えることになるかもしれませんが、ある従業員は減るかもしれません。全従業員の生活と未来がかかっているからこそ、その利害関係の渦中にいる従業員に、公平な視点での相談をすることは構造的に不可能なのです。■ 孤独を受け入れ、乗りこなすための処方箋では、この構造的な孤独とどう向き合えばいいのでしょうか。答えは、「孤独をなくそうとする」のではなく、「孤独を上手にマネジメントする」ことです。そのために最も有効なのが、利害関係のない「社外」に、安心して話せる場所を作ることです。経営者仲間: 同じ痛み、同じ景色を知る経営者仲間は、何よりも代えがたい存在です。元勤務先で先に独立した先輩、起業している学生時代の同級生、私であれば同世代の開業税理士の仲間など、本音で語り合える仲間を見つけましょう。「うちも同じだよ」その一言だけで、どれだけ心が軽くなるか分かりません。話してみると大体どこも同じような悩みを抱えています。メンター: 事業規模は少し大きい、創業が少し早い、そんな少し先を走る先輩経営者に、メンターになってもらうのも良いでしょう。あなたが今まさに悩んでいる壁を、彼らはすでに乗り越えてきています。その経験に裏打ちされたアドバイスは、暗闇を照らす灯台の光となるはずです。専門家(コーチ、コンサルタントなど): 客観的な視点で、あなたの思考の整理を手伝ってくれる専門家の力を借りるのも一つの手です。彼らは答えをくれるのではなく、あなた自身が答えを見つけるための「壁打ち相手」になってくれたり、業界特化のコンサルタントは他社事例を豊富に持っているので、成功事例や失敗事例などの非常に有益な情報源となります。経営者が感じる孤独は、それだけ大きな責任と覚悟を背負っていることの証です。それは決して弱さではなく、むしろ乗り越えられる人にしか与えられない、誇るべき勲章なのです。一人で抱え込んでいる時間はもったいないです。社外に話し相手を求めることは、健全な経営を続けるための、立派な経営戦略の一つだと言えます。(この記事は6日間連続コラムの5日目です。いよいよ明日は最終日、【未来への不安】「このままでいいのか?」事業の停滞を打破する成長戦略をお届けします。どうぞお楽しみに!)