【はじめに】 5日間にわたる節税に関する記事も、いよいよ最終日となりました。これまで、計画的な経費の使い方、役員報酬の最適化、国の制度活用、そして未来への投資といった、中長期的な視点での節税策について解説してきました。計画的に対策を打つことが節税の王道であることは間違いありません。しかし、そうは言っても、「決算月の直前になって、想定以上の利益が確定してしまった…」というケースは、経営者であれば誰しも経験しうることです。最終日の今日は、そんな時に使える「決算直前の駆け込み策」と、絶対に踏み入れてはならない「やりすぎ節税の落とし穴」について解説し、このシリーズを締めくくります。■ まだ間に合う!決算直前に使える「2つの駆け込み策」決算日まであとわずか。そんな時に検討できる、代表的な2つの節税策をご紹介します。ただし、どちらも厳格なルールがあるため、実行する際は必ず専門家にご確認ください。1. 決算賞与(未払賞与の計上) 今期の利益を、日頃頑張ってくれている従業員に還元する方法です。これは節税効果だけでなく、従業員のモチベーションを大きく向上させる、非常に健全な利益の使い方と言えます。仕組み: 通常、賞与は支払った日に経費となります。しかし、一定の要件を満たせば、決算日までに支払っていなくても、当期の経費(損金)として計上することが認められています。厳格な3つの要件:決算日までに、賞与を支給する全ての従業員に対して、それぞれの支給額を個別に通知していること。その通知した金額を、決算日の翌日から1ヶ月以内に、全対象従業員に支払っていること。支給額を通知した全ての従業員に対して、実際に支払っていること。2. 短期前払費用 翌期以降に支払う予定の費用を、当期末までに「前払い」することで、支払った額を当期の経費として計上する方法です。実質的に、利益を翌期に繰り延べる効果があります。対象となる費用例: サーバー代、ドメイン代、雑誌の年間購読料、一部の保険料など、継続的にサービスの提供を受けるものが対象です。注意すべき要件:支払った日から1年以内にサービスの提供を受けるものであること。(2年分の前払いなどは対象外です)毎年、継続して同じ処理を行うこと。(今期だけ利益が出たから、と単発で行うことは認められません)契約に基づいた支払いであること。キャッシュに余裕があれば有効な手段ですが、あくまで「利益の繰り延べ」であり、翌期の利益が圧迫される点も理解しておく必要があります。■ 警告!「やりすぎ節税」が会社の信頼を失う節税に夢中になるあまり、一線を越えてしまいそうな経営者の方を時折見かけます。それは会社の信用を失い、最悪の場合、会社を倒産に追い込む危険な行為です。落とし穴①:「節税貧乏」に陥る 月曜日の大原則でもお伝えしましたが、税金を払いたくない一心で、不要な高級車を買ったり、無意味な接待を繰り返したり…。経費を使うことで手元のキャッシュは確実に減ります。税金は減っても、肝心な時に使える現金がない「節税貧乏」の状態に陥っては、元も子もありません。落とし穴②:「これは経費だ」という思い込み 「社長の家族旅行の費用」「個人的な趣味の高級時計」「友人と飲み食いしただけの領収書」。これらは経費ではありません。事業との関連性を合理的に説明できない支出を経費に計上することは、節税ではなく「脱税」です。税務調査で指摘されれば、本来の税金に加えて、ペナルティとして重い追徴課税(延滞税や重加算税)が課せられます。税務調査官は、決算書や総勘定元帳に計上された「不自然な支出」や「例年にない急な経費の増加」を鋭く見ています。常に「この支出は、第三者に胸を張って『事業のためだ』と説明できるか?」と自問自答する癖をつけましょう。【最後に】 節税とは、裏ワザや魔法を探すことではありません。会社のルール(税法)を正しく理解し、自社の未来を見据えて計画を立て、賢く実行していく、極めて知的な資金繰り策であり、財務戦略です。そして、その戦略を成功させる上で重要なのは、節税に関する正しい知識を持つことです。分からなければ信頼できる税理士事務所をパートナーに相談してください。この5日間の講座が、あなたの会社のキャッシュを守り、未来への成長を加速させる一助となれば、これほど嬉しいことはありません。皆様の挑戦を、心から応援しています。