6日間にわたるコラムも、いよいよ最終日を迎えました。ここまで読み進めてくださったあなたなら、資金繰り、採用、時間管理、集客、そして孤独との向き合い方について、多くのヒントを得られたことと思います。しかし、目の前の課題を一つずつ乗り越えてきた経営者の前に、やがて新たな、そしてさらに大きな壁が立ちはだかります。それは、「自分がいなければ、この会社は一日も回らない」という現実です。社長であるあなたが病気で倒れたら?休暇を取りたくても、現場が気になって全く休めない…。この状態こそ、会社の成長を阻む最大のボトルネック、「スケール(事業拡大)の壁」です。最終日の今日は、この壁を乗り越え、会社を次のステージへと飛躍させるための「仕組み化」についてお話しします。■ なぜ「仕組み化」がなければ、会社は成長できないのか創業期は、社長のスーパーファインプレイでほぼ全てが回ります。社長自身がすべてのことを対応しますので、課題こそあれ大きなトラブルは起こりません。それは素晴らしいことですが、会社の成長は「社長個人の能力と時間」という天井に張り付いてしまいます。あなたが24時間働いても、会社が生み出せる価値には限界があるのです。そして、社長は機械ではなく人間です。24時間稼働することは無理ですし、仮にできたとしても疲弊しますので同じパフォーマンスを発揮し続けることは無理です。この「属人性」こそが、事業拡大の最大の敵です。 「仕組み化」とは、この属人性を排除し、「誰がやっても、ある一定の品質で事業が回る状態」を作り上げること。それによって、事業に「再現性」と「拡張性」が生まれるのです。例えば、スターバックスは、世界中のどこでも、アルバイトが同じ品質のコーヒーを提供できます。それは、徹底的に「仕組み化」されているからです。あなたの会社をスターバックスにしようという話ではありません。しかし、そのエッセンスこそが、あなたの会社を永続させ、あなたを日々の作業から解放してくれるのです。■ 事業を「仕組み化」する、具体的な3つのステップでは、何から手をつければいいのでしょうか。難しく考える必要はありません。以下の3つのステップで進めていきましょう。Step 1:業務の「標準化」 まずは、あなたや優秀なメンバーが「普段、無意識にやっていること」を全て書き出すことから始めます。お客様からの問い合わせ対応、見積書の作成、商品の梱包手順など、どんな些細なことでも構いません。手順を文章にしていきましょう。完璧なマニュアルを目指さなくて大丈夫です。むしろ、目指せば目指すほど緻密になりすぎて、かえって使いづらいものになっていまいます。基本的な業務の流れを「これを見れば、新人でも70点の仕事ができる」状態を目指しましょう。この「標準化」こそが、品質を安定させ、教育コストを下げる基本です。Step 2:判断の「ものさし」を共有する 手順を標準化しても、日々の業務では必ず「どちらにすべきか」と迷う場面が出てきます。その度に社長に確認していては、いつまで経ってもあなたの時間は生まれません。そこで重要になるのが、判断の拠り所となる「共通のものさし」を言語化し、共有することです。これを「ミッション」や「ビジョン」などの「経営理念」と呼びます。 「迷ったら、常にお客様が最も喜ぶ選択をする」 「コストより、スピードを優先する」 こうしたシンプルな判断基準があるだけで、メンバーは自信を持って自律的に動けるようになります。Step 3:ITツールで徹底的に「自動化」する 請求書の発行、顧客情報の管理、SNSの予約投稿…。今や、人間の手でやる必要のない繰り返し作業は、安価なITツール(SaaS)が肩代わりしてくれます。CRM(顧客管理システム)、会計ソフト、プロジェクト管理ツールなどを積極的に導入し、人間がやるべき「創造的な仕事」に集中できる環境を整えましょう。これはコストではなく、未来の時間を確保するための「投資」です。■ 「仕組み」が創り出した時間で、社長が本当にやるべきことさて、仕組み化が進み、あなたが日々のオペレーションから解放されたとき、その手に入れた時間で何をすべきでしょうか。それこそが、社長にしかできない「未来を創る仕事」です。3年後、5年後の会社のあるべき姿を描き、そのための戦略を練る。新たな収益の柱となる、新規事業を立ち上げる。会社の成長を加速させる、外部パートナーとの提携(アライアンス)を模索する。組織の安定感を生み出すために、人材の採用活動に時間を費やす。メンバーが増えてきたら人事制度を整える。「仕組み化」は、あなたが楽をするために行うのではありません。社長が実務から離れたからと言って、空いた時間で遊びまわっているようでは、会社は目に見える速さで劣化していきます。時折、「自分が仕事をしなくても回る会社にして、楽して稼ぎたい」という経営者の方もおりますが、そのような状態は長くは続かないため、非常に危険な発想だと言わざるを得ません。「仕組み化」は、あなたの会社が、あなた個人の寿命を超えて永続し、より大きな価値を社会に提供するために行う、創造的な経営活動です。6日間のコラムをお読みいただきありがとうございました。このコラムが、あなたの事業活動に少しでもお役に立てておりましたら、幸いです。