「売上は順調に立っているはずなのに、なぜか銀行口座の残高はいつもギリギリだ…」多くの創業経営者が、一度はこんな悩みに直面するのではないでしょうか。帳簿上は利益が出ている「黒字」の状態でも、支払いに必要なお金(キャッシュ)が手元になければ、会社はあっけなく倒産してしまいます。これが、最も避けたい「黒字倒産」です。なぜ、こんなことが起こるのでしょうか?今回は、創業経営の生命線である「資金繰り」の基本と、キャッシュを安定的に保有するための具体的な考え方についてお話しします。■ なぜキャッシュは減るのか?未来への「健全な先行投資」創業期にキャッシュが減る最大の理由の一つは、事業を成長させるための「先行投資」にあります。ビジネスは、まず経費が先にかかり、その後に売上がついてくる、という順番で進むのが一般的です。例えば、広告宣伝費: まず広告費を投下して自社の商品やサービスを認知してもらい、後からお客様が増えて売上が伸びてくる。人件費: 先にメンバーを採用し、給与を支払うことで組織の基盤が整い、より大きな事業をスピーディーに進めることができる。設備投資: 飲食店であれば、店舗の賃貸契約や内装工事といった支出が先にあるからこそ、お店をオープンし、日々の売上を生み出すことができる。これらは、未来の売上を作るために不可欠な「健全な投資」です。ですから、創業期にキャッシュが減っていくこと自体を過度に恐れる必要はありません。問題は、このキャッシュの流れ、要は「何にどのくらいの金額が必要か?」を経営者が正しく把握し、適正額に抑えられるようコントロールできているかどうか、という点にあります。どのくらいの先行投資が必要か、ある意味悲観的に、多めに見積もることで創業時の資金ショートは回避できます。正しく初期投資額を見積りできていれば、資金繰りに困ることはありません。■ 鉄則は「入金は早く、支払いは遅く」事業が軌道に乗り始めたら、次に意識すべきは「いかに手元にキャッシュを残すか」という視点です。そのための鉄則は、非常にシンプルです。「入金はできるだけ早く、支払いはできるだけ遅く」これを業界用語では「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」の改善と言ったりもしますが、難しく考える必要はありません。お金が入ってくるタイミングを早め、出ていくタイミングを遅らせる工夫をする、ただそれだけです。例えば、あなたの会社がBtoBの取引をしているとします。お客様に請求書を送ってから入金されるまでの期間(売上金の回収サイト)が「月末締め・翌々月末払い(60日サイト)」だとしましょう。一方で、仕入れ先への支払いやスタッフの給料、家賃の支払い(支払サイト)は「月末締め・翌月末払い(30日サイト)」だとします。この場合、売上が発生してから、そのお金が手元に入るまでの間に、1ヶ月分の支払い日が先にやってきてしまいます。これこそが「売上はあるのにお金がない」状態を生み出す典型的なパターンです。これを改善するために、例えば、入金: お客様との契約時に「月末締め・翌月20日払い(20日サイト)」で交渉する。支払い: 仕入れ先や外注先との契約で「月末締め・翌々月10日払い(40日サイト)」で交渉する。このように交渉するだけで、手元にお金が残る期間が劇的に長くなり、資金繰りは格段に楽になります。他にも、前受金や着手金をいただく、クレジットカード決済を導入する、請求書を月初にすぐ発行するなど、入金を早める工夫はたくさんあります。■ まずは「資金繰り表」で未来を可視化しよう「そんな交渉、うちみたいな小さい会社じゃ難しい…」と思われるかもしれません。しかし、自社のキャッシュの流れを把握しないままでは、交渉のしようもありません。まずは、難しく考えずに、シンプルな「資金繰り表」を作成してみましょう。Excelで構いません。「いつ、誰から、いくら入金される予定か」「いつ、誰に、いくら支払う予定か」を3ヶ月先まで書き出すだけでも、お金が足りなくなりそうなタイミングを事前に察知できます。資金繰りを管理することは、会社の未来をコントロールすることと同義です。会社のキャッシュを適正額で保持し、未来への健全な投資を続けていくために、今日からぜひ実践してみてください。(この記事は6日間連続コラムの1日目です。明日は【採用・組織】「良い人が採れない!」最初の“仲間”集めで失敗しない採用術をお届けします。どうぞお楽しみに!)